◉フロントローディングとQFD①
どうしても新しい製品を早期に投入しないといけないという場面は、競争の激しい製造業の世界では決して珍しいことではないはずだ。というより、経営者であれば新製品の早期投入を望むはずだ。時代に取り残されて、市場機会を逃すことなどできない。
だからといって粗悪品を世に出すことは企業にとって命取りだ。品質を犠牲にすることはメーカーにとった命取りだ。これだけは避けなければならない。
品質の高い新製品を早期投入する(*1)、というのが本当に求められていることなのだ。
まず、把握しなければならないのは製品の開発初期段階で必要な活動項目だ。また、これらの活動項目が実効性を有するために必要な留意点について話そうと思う。
1.開発を始める上で品質を確保するために必要な項目
品質を確保するためには次の点に気をつけなければならない。まず、製品に求められているものは何かを知ること。次に信頼性を確保すること。そして、製品に求められていることを実現するためには何が必要なのかを知ること。この3点について話そうと思う。
それでは、製品に求められていることを知るにはどうすれば良いのだろうか。それは単に顧客の声を聞けば良いという単純なものではないはずだ。顧客自身も自分たちの要求を知っているわけではないからだ。たとえば、iPhoneがない時代にiPhoneのようなものを欲しがっていた人は少なかっただろう。顧客の声を、もっと深いレベルの概念に抽出することが大切だ。この場合はいつでもインターネットにアクセスできるコンピュータという概念を見つけ出すことが大切だ。iPhoneは決して単なる電話のできるiPodではいけないのだ。また、製品に求められている要求は漏れなく盛り込む必要がある。音楽の聞けないiPhoneは求められていないだろう。
このように、抽出された顧客の要求を製品に盛り込むには、製品の技術的特性として理解する必要がある。これらの特性の中で顧客の要求が大きいものを実現必要項目とすることで、実現化できるかどうかを測定することも可能となる。これで、実現すべき項目を漏らすことなく測定することができるようになる。また、測定可能になったことにより、どこに目標を設定すればを決めることができるようになる。このようなプロセスを経て、顧客の要求を具体的な目標に変換することができるのだ。
次に、信頼性を確保するための方策が必要となる。信頼性は規定した使用条件、期間で、製品が要求機能を維持すれば達成されるものではない。それに加えて安全性やメンテナンスの容易さなども重要なファクターだ。これらを設計目標とし、達成しなければならない項目を明確にする。このようにして明らかにされた項目について、それぞれ、故障の木解析(FTA)や故障モード影響解析(FMEA)を実施することで、高い信頼性を実現できるようになる。
そして最後に、製品に求められていることを実現するにはどのような技術的課題があるのかを知らなければならない。これが明確でなければ製品の開発を進めても意味がないだろう。技術的課題を明確にしたのち、どうしても揃わないピースが見つかるはずだ。逆に全てのピースがすんなり揃ってしまうのであれば、その製品のコンセプトがよほど斬新なものでない限り、人を惹きつける製品にはならないのではないだろうか。この、残されたピースこそが僕たちを強くする秘密の羅針盤の可能性は高い。この羅針盤にしたがって未達成の技術的課題を達成させるということで、顧客への訴求力の高い新製品を創り出すことができるのだ。
*1)製品開発の初期工程にリソースを投入することでコスト、品質を作り込む手法をフロントローディングという。
*2)このような一連の流れは品質機能展開(QFD)における品質機能展開表によるアプローチを参考にしている。
(つづく)