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言葉にならない(人間にとっては)

ahedgehogchase

(以下、経済産業省から刊行されている「2016年版ものづくり白書」より引用。)

 

職人の技を機械化することで自社の強みを再認識

 東海バネ工業(大阪市)は兵庫県豊岡市に工場を構え、平均ロット5個の大型コイルバネの製造を専門に手がけている。

 極小ロットの特殊大型コイルバネを専門に手がける企業は、今や世界で同社だけというオンリーワン企業で、同社のつくるバネはエネルギーをはじめとする社会インフラ基盤を支える重要なキーパーツとなっている。

 世界の社会インフラを支えているだけに、製造技術・ノウハウの継承は同社にとって重要な課題であった。そこで、同社 は熟練工の技術やノウハウを数値化してデータ制御することにより、電磁誘導加熱・保温炉システムや材料の自動投入シス テム、6軸制御のコイル巻き技術の自動化システムの開発に成功した。職人の技を機械化したことで、極小ロットの大型コ イルバネの製造を高齢の熟練職人のみに依存する体制から脱却し、平均年齢約 35 歳の技能者による製造体制に切り替える ことが可能となった。

 また、技能の見える化を達成したことで、職人の役割、すなわち “熟練の技のあるべき姿” がより明確になった。具体的 には、これまで職人が手がけてきた仕事の中で「機械でもできること」「職人にしかできないこと」の線引きが明確になった。 機械化により「職人にしかできない」という仕事は減ったが、人に残された仕事は非常に難しいものばかりで、スキルアッ プの教育だけではこなせない性質の仕事であることも明らかになった。人に残された仕事はスキルというよりセンスが必要な領域で、生まれながらにその人が持ち合わせているもの、もともとその人の持っている引き出しから生み出されるもの、 そういうものが必要とされる仕事であった。同時に、このセンスを必要とする領域こそが、他社の追随を許さない同社の強みであることも明らかになった。つまり、技能の見える化は、結果として同社の強みの見える化につながったのである。

 なお、同社が技能の見える化に取り組んだ背景には、技能継承以上に、職人を過酷で危険な作業から開放したいとの思い があった。大型コイルバネを製造するには、最大長 15m、質量 800kg にもなる材料を約 900°Cに加熱して形状をつくる 必要があり、極小ロット故に機械化ができず、過酷で危険を伴う作業であった。この過酷で危険きわまりない職場環境をなんとかして改善したいという強い思いがあって、職人の技の機械化が達成できた。

 技能を技術に置き換えるには、時間も金もかかる。一朝一夕に簡単にできることではなく、コツコツと辛抱強く取り組む必要がある。だからこそ、目的達成への強い思いがなければ継続して取り組むことは難しい。技能の見える化を目的とするのではなく、何のために技能の見える化に取り組むかを明らかにすることが重要だといえる。

 

 面白いのは、暗黙知を徹底的に形式知化した結果、「センス」にたどり着いたことだ。自動化できなかった仕事は本当にハイレベルな業務ばかりで、それをこなせる人材がいることが東海バネ工業の強み、つまりコアコンピタンスになるのだ。おそらく現時点の技術ではそのノウハウは機械化することは不可能なのだろう。この知識はどうやって次に伝承していくのだろうか。

 今後、ディープラーニングなどの最新の機械学習の手法を用いて画像分析をしていくことで、こういう「残された」知識が定量化されていく可能性はあると思っている。もしかしたら、AIは人間が気づかなかった特徴量を捉えることができるかもしれない。センスとは何か、というちょっと科学では捉えられない領域のものを扱う時代が迫ってきているのかもしれない。そのとき、知の伝承は新たなステージに立つのだろう。

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