僕らの船団と、みんなの航海日誌
- ahedgehogchase
- 2017年2月2日
- 読了時間: 4分
◉PLM
羅針盤の先を目指して漕ぎ出した僕たちは、ただ闇雲に羅針盤のさす方向へ進めば良いのだろうか?そんなことはないはずだ。海図は僕たちに用意されていない。行く先は僕たちに見えないのだ。それでも、どんな特徴の場所にどんな危険が待ち受けているのかという統計的なデータは取れるはずだ。そして、そのデータが身体に染み付いた状態が、職人の勘というやつだ。でも、今はそんな属人的な技能に頼っているだけではいけない。

そして旅路は、大きなひとつの行程として捉えることも可能だが、複数のプロジェクトとして捉えることで、一旦の目的地を見出すことはできるはずだ。そこにたどり着くにはどうすれば良いかを予め考え、たどり着くまでの航海日誌を記し、そのプロジェクト、そしてこれからのプロジェクトに役立てるのだ。
ものづくりという航海の中で、航海日誌の役割を果たすのはPLM(Product Life Management)だろう。PLMはコンカレントエンジニアリングを推し進めるためのハブのような存在だ。このソフトウェアには、設計データがすべて格納されるだけではなく、PDFなどの文書データも参照できるようになっている。そのプロジェクトに、必要なものは全て揃うのだ。設計データは3DCADのデータで保管され、それがCAEで性能評価され、CAMで製造時のシミュレーションが行われる。そしてCADデータから構成表(BOM)を作成をすることもできる。これを元に資材部門が最適な調達先を探し出し、実際の工程を稼動できるようにすることができるのだ。
また、これらのデータは、商品を販売する上でも使用することができるし、サービスパーツなど、アフターフォローの面でも役立つ。もっと言えば、その製品をどうやって廃棄するのかまで検討することができる。つまりPLMは単なる設計部門のための便利なツールという位置づけよりも、もっと上位にくるツールということだ。これは組織全体を巻き込んだコンカレントエンジニアリングの要ともなりうるツールだ。自分たちで設定した目的地にいち早くたどり着くための戦略的な道具なのだ。
このツールを使いこなせるかどうかは、その組織の体質がかなり関わってくるだろう。ツールが導入できればそれでめでたしめでたしなどということはないのだ。これは以前コンカレントエンジニアリングについて書いた時も指摘したことだが、やはり部門間の敷居が低い、オープンな組織であり、オープンな文化を持つことが最も重要だ。
もちろん、設計ツールとしてもPLMは強力だ。多くの人が、同時に破綻なくひとつの製品の設計を進められるように色々と機能がある。たとえばデータはサーバー上に格納されているが、設計者は自分の使用している端末にそのデータをダウンロードして作業することができる。これをチェックアウトというが、この状態になると他の人はそのファイルを編集することができなくなる。だから、ひとりの設計者が何らかの部品データを編集しているときには他の設計者はその部品を勝手に変更することもできなくなる。もし、編集が終わったなら、設計者はそのデータをサーバーにアップロードするだろう。これを、チェックインといい、この状態であれば、他の人がそのファイルをチェックアウトして、編集することができるようになる。
部品の詳細設計が、的確に分担できている場合は、同時にいろんな人が編集しても、どれが最新版かわからなくなるなんてことは起きない。ただ、正当な最新バージョンがそこに構築されていくのだ。
そんなわけで、僕たちは自分で定めた目標までの道筋を、色々と思考錯誤しながら旅してきた経験を航海日誌として残すことができる。たとえ目的地は違えど、それはより効率的に僕たちを導いてくれるはずだ。だからこれを使わない手はない。
話は少し変わるが、最近PLMの概念はクラウドベースで使われるようになってきた。Autodesk社のFusion 360はクラウドベースの3DCADだが、これも複数の設計者がコラボレーションするのに最適のツールだ。Fusion 360はGrab Cadなどの外部の3次元データ共有サイトと連携することで、コミュニティーにいちはやくシェアできるようにされている。シェアされたデータは極端な話、スタバで3DCADを開いてみることだってできる。
そして、これは新しい潮流を生み出しつつある。コミュニティーベースの共同開発にも使用できるようになったきたのだ。20世紀のものづくりではここまで大胆なことは出来なかっただろう。例えて言うならば、これは一隻の大船で目的地に向かうスタイルだけではなく、有志の船団が同じ方向に協力しながら進んでいくスタイルが出現しつつあることを意味している。もともと関係のなかった世界中にある小規模なチーム同士が協同して大きな目標に向かって進むと言う、グローバルな開発体制だってできるようになる可能性だってある。
21世紀のものづくりを劇的に変えるのも、もしかしたらPLMなのかもしれない。

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