◉CAE②
幻に取り憑かれてはいけない
ひとつ目の問題点は、入力条件の与え方によって解析結果が異なることだ。もしも、入力条件の与え方が適切でなかったら、僕たちは本当に知りたい結果を知ることができなくなってしまう。では、入力条件とは具体的に何だろうか。ここに六つの例をあげよう。
(1)モデルの形状
(2)材料設定
(3)単位系
(4)拘束条件
(5)荷重の設定
(6)メッシュ
いずれの場合も最も気をつけなければならないのは、特異点が発生しないように入力条件を設定してやらなければならないということだ。特異点というのは、応力の出力値が無限大になる点だ。この解析結果は正しくない。
では、どうすれば僕たちは特異点の発生を起こさせずに解析を実行することができるのだろうか。(1)のモデル形状の例で言えば、3DCADのモデルのコーナーにRを設けなければ、その箇所には応力集中が発生し、そこは特異点となる。(4)の拘束条件であれば、モデルを完全に拘束してしまうのもよくないし、(5)の荷重の設定であれば一点集中荷重の場合に特異点が発生する。これらのことに木をつけて取り組まなければならない。
また、特異点が発生しなくても、コンピュータ上のモデルの条件を実物と全く同じにすることは困難だ。今後、コンピュータの処理性能が向上した場合に、完全に実物とリンクするような形にすることが不可能だとは言わないが、現状では非常に困難だという認識を持っていた方がいいだろう。だから、出力された結果を過大評価してはいけない。必ず、プロトタイプを用いた性能評価を行い、CAEの結果との関係性を確認しておく必要が有る。おそらく殆どの数値の絶対値は一致しないだろう。あくまでCAEは、試作評価の際にどこが失敗しやすいかということをつかむための指標とするべきだ。試作評価は必ず必要なのだ。
あくまで仮想世界の幻は幻だと認識しておくことは、現実の世界でのものづくりを行うためには必要なことだ。
(つづく)