◉コンカレントエンジニアリング
僕たちには時間はない。でも、時間に追われるだけじゃだめだ
「僕たちには時間はない。」と思ってかかった方がいい。なぜなら、世界中で僕たちのライバルになるであろう人達がしのぎを削って、彼らのアイディアを実現しようとしているからだ。もし、君のアイディアが唯一無二のものであるのであれば、あまり関係のない話かもしれない。でも、そうであることは非常に稀だし、仮にそうであったとしてもそれに代替するアイディアがどこかで生まれているかもしれない。もしかしたら君と君の仲間達は、君たちしか知らない「隠された真実」を見つけているのかもしれない。でもその真実に至る道は決してひとつではないはずだ。誰かが先にそれを皆に伝えて回っても君はそれを咎めることはできない。
できるだけ早く市場に投入する。このタイムツーマーケットの手法については以前にも取り上げたことがある。そして、今回もその手法として大きなウェイトを占めているコンカレントエンジニアリングについて書こうと思っている。これは僕たちのアイディアをいち早く形にするための体系的手法だ。僕はこれを勝手に「みんなでバケツダッシュ方式」と呼んでいる。従来のサプライチェーンのあり方がバケツリレーだとしたら、コンカレントエンジニアリングはみんなでバケツを持ってダッシュしているようなものだからだ。疲れるかもしれないが、あっという間に水を目的地に運び切ることができる。
だが、コンカレントエンジニアリングについて書く前に、タイムツーマーケット短縮のための手法について少し触れておきたい。そう、コンカレントエンジニアリングだけがタイムツーマーケットの手法ではないのだ。
たとえば、モジュール化という手法がある。電子機器ではモジュール化された部品を集めてきて組み立てることで自分の製品として売ることができる。車業界でも、共通のモジュールを開発することで、モジュール化を進める動きもある。モジュール化ができれば、個々の製品用の部品の設計を省略することができる。だから、製品をいち早く市場に投入できるのだ。
また、EMSと協力して開発を進めれば、MESのリソースを自分たちのために使うことができる。要は仲間を増やしたのと同じだ。仲間を増やすという意味ではM&Aも有効だろう。しかも、目的とする技術や製品と、それに精通した仲間を得ることができるのだ。
というわけで、コンカレントエンジニアリングがタイムツーマーケットの短縮のための手法の一部に過ぎないということが分かったと思う。
でも、問題はそこじゃない。これほどまで色々な手法がある中、なぜコンカレントエンジニアリングという言葉がもてはやされるのか?これが重要だ。実はコンカレントエンジニアリングには他にもふたつの利点があるのだ。
そのひとつはそれが「より高い目標へ向かうための技法」だというだ。そしてもうひとつは「業務革新の手法として有効」なのだ。無理だと思われている事に挑戦するためにもコンカレントエンジニアリングの手法は有用だ。それはムーンショッティングな目標に突き進むための起動計算法とでも言えるだろう。そして月に向かう舟で働く僕たちの在り方を、再度考え直すための糸口となるはずだ。
より高みを目指して僕たちは議論する
どうしてこんな事が可能なのだろう、と不思議に思うかもしれない。実際、高い目標の達成や業務革新は難しいことだ。それを成し遂げるためにはある程度の傷みが伴うからだ。というのも、これらを成し遂げるには、メンバー間の真剣な衝突は避けられないからだ。
色々な役割を担っている仲間たちがいる環境では、ひとりひとりの優先順位は異なる。これは自然な事だ。分かりやすい例としてはコストを重視する資材担当のメンバーと、品質を重要視する品質部門では優先順位が真逆というのが挙げられる。優先順位が違う以上、それぞれがここは譲れないという線を持っているはずだ。だからそこに齟齬が出ると衝突が起こる。でも衝突は悪いことだとは限らない。
重要なのは互いを理解しあい、月に到着するにはどうすれぼ良いのかを議論すること。そして、最適な解を探し出すことだ。これができれば衝突は意味のあるものに昇華する。そしてこれを先ほどの例だけでなく、QCDSEのバランスが取れた状態で成し遂げなければならない。だから、前提条件として、君の仲間たちが大いなる使命と、個々の役割についていかに自覚的であるかということが、重要だ。なぜなら、自分たちの役割における優先順位よりも上位の優先事項が何なのかがわかれば、おのずと何をなすべきかが明らかになるからだ。常に頭に置いておかなければならないのは、「自分たちが何を為すべきなのか」「何に価値を最も置くのか」ということだ。君の仲間は君と同じ志を持っていなければならない。その中で、自分の役割をどう果たせば良いのかを考え続ける必要がある。
これを日々繰り返すことで、月への軌道に入るにはどうすれば良いのかが、見えてくるはずだ。そして、働き方にも変化が見えてくるだろう。君たちの志を成し遂げるには、サプライチェーン全体がどうあるべきかを、見極められれば働き方にもオリジナリティが生まれてくる。そういうものだ。
まずはこれを頭の片隅に置いて置いてほしい。これが君のスカンクワークスの始まりだ。