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目的地を決めよう。それは誰も行ったことのない世界だ②

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バケツリレーのバケツが戻ってきた

 話を戻そう。出発点としては開発から市場投入までの時間を短縮するということだった。それではそもそも、何が原因で貴重な時間が失われていたのだろうか。

 バケツリレーを思い浮かべてほしい。バケツリレーでは水源に近い人から隣の人に順番に渡していく。でも、ここで僕たちが想定しているのは普通のバケツリレーじゃない。バケツリレーに参加している人たちは、自分達の役割にかなりこだわりを持っている。だから、バケツを渡された時にすんなりと受け取らない。「バケツの中身、確認した?これ、消火用の水だったら危ないところだったよ。燃えるよ。何で油が入ってるの?」という具合で取り合ってくれないのだ。さすがにこんなとぼけた(そして危険な)事は起こらないと思うが、仕事の手戻りが貴重な時間を奪っていくのはよくある事だ。例えば設計部門から製造部門に仕事が移管された時に、生産部門から色々と注文がつくことがあるだろう。

 「こんなもの一体どうやって作れっていうんだ!」

 よくあるのが、形状に関する指摘だ。加工しやすい形状は、コストを安く抑える手段にもなる。加工精度もコストに直結する。公差を厳しくする事は品質向上につながるが、本当にその精度が必要なのかということは設計者は常に問い続ける必要があると思う。そして、材料自体についての指摘もよくある手戻り案件だ。錆びないからSUS304にしよう、とか安易に材料選定していないかだろうか。ステンレス合金も使用条件によっては錆びるし、コストも高い。生産する数量にもよると思うが、鍍金した鉄鋼材料を使用した方がコストも安いし、加工もしやすい。そのほかにも、部品管理はどくするか、組み立てやすい構造か、品質は?信頼性は?という風に手戻りを発生させそうな要素は枚挙にいとまがない。

 コンカレントエンジニアリングでは設計の段階で生産技術の技術者や品質部門の専門家などが、智慧を集結すべく集まる。だから、設計の段階で生産性やコスト、品質に関する事項を盛り込むことができる。これによって手戻りの発生を少なくすることができるはずだ。

三本の矢は折れない

 でも智慧の集結による利点はそれだけに留まらない。何せ色々な部門からの専門家が集まっているのだ。たとえば設計技術者が知らない製造方法を提案してもらったりすることで、さらなる小型化、軽量化、低コスト化が可能になることもあるだろう。これを製品の

全体にわたって実施するのだ。智慧の集結が、より高い目標を目指すための原動力となり、QCDSE(品質、コスト、調達、安全、環境)のバランスのとれた製品を生み出すことが可能となるだろう。ライフサイクル全体で考えるということはコンカレントエンジニアリングを進める上で、業務を並行的に進めることと並んで重要な視点だ。これを忘れないでほしい。

まずは天秤を探しだそう

 そして、このような体制はより強固な組織を作り出すきっかけになる。前にも書いたが、この方法を採用することで、各々の担当者同士の意見の相違が顕在化するからだ。だから、優先順位の決め方は組織の大いなるミッションに従うという形でなければ、事態を収拾できない。単に声の大きい人が勝つ、という方式では一段上のレベルに到達できないし、何らかの禍根が残るかもしれない。だから、組織のミッションは明確でなければならない。それに照らし合わせれば答えが見えてくるような天秤のようなミッションが必要だ。それに照らし合わせて業務を遂行できる組織は強い。

 だから、しっかりとした天秤を持つことが最も大事なことだ。そしてそれを仲間たち全員に配るのだ。そうすれば君と君の仲間たちは、どんなに遠くでも行ける。その目的地は誰も到達したことのない世界だろう。

 天秤を手に入れるのは、決して簡単なことではないだろう。もしも君たちが自分達が世界一得意なことは何がを知っていて、それを極める熱意と冷静な野望があればそれを成し遂げることは決して夢ではないと思う。だからまずは自分を見つめ直すことが肝心だ。自分を、そして仲間を知ること、そしてその熱意をいかに重ね合わせることができるかが、天秤を手に入れるための唯一の道だ。決して楽な道ではないだろう。でも、その先に待っているものに心が高鳴らないだろうか。

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