より高みを目指していこうという話をしたが、どうやって進めるのが有効だろうか。コンカレントエンジニアリングはボーイング777の開発で一躍知られるようになった。このプロジェクトでは3次元データの活用によって開発期間を短縮することに成功した。このプロジェクトでは機体の3次元データを一元化し、社内だけでなく関係する企業も巻き込んだ開発が行われたという。様々な工程の担当者が3次元データにアクセスできることによって、コンカレントエンジニアリングを達成することができたのだ。
こう書くと、今までと言ってることが少し違うんじゃないかと思われるかもしれない。僕は、前回「ミッションを基準とした議論が大事だ」という話をした。だが、ボーイング777の例では3D CADの話を持ち出してきている。これは具体的なITツールの話だ。組織の仕組みとはまた違う。
つまり、コンカレントエンジニアリングを達成するためには、仕組み以外の視点があるということだ。組織の仕組みとITツールの両方が揃うことで、より強力なアプローチが可能となる。
けれども、仕組みとITツールの重みは同じではない。仕組みの方が大事だ。ITツールを導入した時に、それを活用できる組織でなければいけないのだ。先ほどのボーイング777の例にしても、3D CADを部門や会社の壁を超えて共有できる体質があったからこそ成し遂げられたのだ。付け加えると、その頃、米国では日本企業の製品開発についての研究が盛んに行われていた。そこで彼らが見出したのは、米国のシーケンシャルな開発体制に比べて、日本企業では部門の役割があいまいで、そのつなぎ目を柔軟に対応しているということだった。そんな背景があったことから、ボーイング社が最新の技術を用いてこのプロジェクトをコンカレントに成功させたことで、この手法は注目を浴びるようになった。
2010年代から、3Dプリンタを始めとするデジタルファブリケーションやヘッドマウントディスプレイなどのVR/AR技術など、コンカレントエンジニアリングを強力にすすめるツールが普及し始めている。そしてそれは個人でも利用できるようになってきている。
そして、それと同時にメイカーズブームメントも広がりつつある。メイカーズによるコミュニティベースのオープンソースハードウェアの開発も、インターネット等を介して協同で行われるものだ。GrabCadやFusion360などのツールを用いれば、3次元データやシミュレーション結果も共有できる。これによって、世界中の人達と一緒に開発を進めていくことができるようになってきているのだ。
そしてコミュニティは、そのアイディアの実現のために自発的に集まってきた仲間たちだ。だから、プロジェクトのミッションに共感する人が集まっているという意味で、ミッションに対する潜在能力の高い集団なのではないかと思っている。しかも、役割分担は曖昧だ。誰がどのように参加してもいいのだから。
では、そこに仕組みを持ち込むことができればどうなるだろうか、というのが僕の興味だ。コミュニティベースのフロントローディングやアーリーソーシングというものがあり得るのだろうか。これが可能なのであれば、ものづくりの世界は大きな変貌を遂げることになるだろう。そんな時代を見てみたいものだ。