仲間の智慧を借り、自らの智慧を貸す。そういう関係がコンカレントエンジニアリングを遂行していく上でも重要だということはすでに述べた通りだ。智慧の貸し借りの場が開発や設計の場面で行われれば、それはフロントローディングと呼ばれ、生産技術開発の場面で行われればアーリーソーシングと呼ばれる。これらの仕組みは強力なツールだ。これらの仕組みを使いこなせればコンカレントエンジニアリングの実現は目の前に見えてくるだろう。今回はこの2つのツールについて語ろうと思う。
フロントローディングについては個人的に反省がある。それは以前「フロントローディングとコンカレントエンジニアリングはベクトルが逆だから最適な比率で行うのが良い」という趣旨のことを書いてしまったことだ。当時、僕にはフロントローディングがコンカレントエンジニアリングを遂行するための仕組みのひとつだという視点が抜けていたので、このような書き方になってしまった。フロントローディングはコンカレントエンジニアリングに包括されている。というより、コンカレントエンジニアリング実現のための強力な仕組みだ。
フロントローディングを実施すると、人的リソースは開発、設計に部隊に集結する。だからそこに、品質や生産技術系の人材も集まることになる。だから、そこで智慧の交換が起こる。品質を高める設計や、生産性の良い設計、そして低コスト化できる設計などが集結するのだ。
智慧が集まってくることにより、検討すべき項目は増えるはずだ。開発コストも膨れ上がるだろう。でもこれは時間を金で買っているのだ。経営者は何を優先すべきかという判断を下さなければならない。
アーリーソーシングは、バリュチェーンの上流で開発・設計を進めているのと同時期に、その製品の製造方法の革新につながる生産技術を開発する手法だ。開発・設計部門から早めに提案が出されれば、生産技術部門はそのアイディアについて検討する時間がある。まだ具体的な生産ラインを構築するには情報が少ないので、そちらを本格的に始動することができないのだ。だからこの仕組みは双方の部門にとって都合が良いし、全体としてみても効率の高い方法だ。
フロントローディングとアーリーソーシングを同時に行うことができる体制が築かれれば、その組織の強さは本物だ。この体制があれば、君たち全員で大いなるミッションの実現に邁進することができるようになるだろう。そのためにも智慧を分かち合おう。