今回は、巷で話題の人工知能をものづくりにどう活かすかという話だ。ジェネレーティブデザインという新しい考え方を、今後の技術者はどのように使いこなしていけば良いのかについて考えながら、問題を解いてみた。
1-1 機械設計【選択科目II】(平成28年)
III-2 近年、人工知能(AI: Artificial Intelligence)を活用したサービスが実用化されたというニュースや、人工知能が将棋や囲碁の棋士を破ったというニュースが報道されるようになた。このように人工知能が実用化レベルに達してきた要因として、インターネット等により膨大なデータの収集が容易にできるようになったことや、機械学習と呼ばれる人工知能の技術を用いることにより、収集したデータからコンピュータ自体が学習し、正確な判断が可能となってきたことが挙げられる。例えば、汎用AIと呼ばれるシステムが開発され、目標や入出力データを与えるだけで使えるようになっている。
今後、人工知能は「ものづくり分野」や我々の生活を支える多くの製品に応用されていくことが予想される。しかし、そのためには人工知能の研究開発に加え、人工知能が正しい判断を行えるようにするための周辺技術の向上なども必要であると考えられる。
あなたが機械設計において人工知能を活用する立場であるとして、以下の問いに答えよ。
(1)現段階において、人工知能を活用することが有効と考えられる機械設計プロセスを1つ挙げ、そこで重要となる技術的課題を述べよ。
(2)(1)で挙げた技術的課題を解決するための方策を述べよ。
(3)(2)の方策に潜むリスクについて述べよ。
【解答例草稿】
1. ジェネレーティブデザインとその技術的課題
1.1 軽量化プロセスに用いられるトポロジー最適化
現在人工知能を機械設計に活用するのに有効な機械設計プロセスとしては製品の軽量化が挙げられる。たとえばテレプレゼンスロボットを人間の暮らしに密着させるためには、軽量化は避けて通れない。そのプロセスに用いられるのがトポロジー最適化によるジェネレーティブデザインだ。
ジェネレーティブデザインとはコンピュータが自動生成的に構造物の設計等を実行する技術である。そしてジェネレーティブデザインの一つであるトポロジー最適化は、ある形状から不要な部分を抜いていき、最適化された形状を参考にして軽量化を行う手法だ。
1.2 トポロジー最適化の技術的課題
トポロジー最適化によりコンピュータから提示される形状は、複雑な形状である場合が多い。通常の形状から不要な部位を取り除くことで、軽量化を進めるからである。そのため、生成された部品は加工が難しく価格も高価なものになる可能性が高い。3Dプリンタなどのアディティブマニュファクチュアリング(AM)であれば、容易に再現することはできるかもしれないが、最終製品にAMを用いた事例はまだ少なく、現実的ではない。
2. トポロジー最適化形状に対するDFM
複雑形状による高コスト化を回避するために、トポロジー最適化形状に対するDFM(Design For Manufacturing)を実施することを提案する。すなわち、トポロジー最適化により得られた複雑な形状を、加工可能な形状に単純化することで、軽量化と製造容易性の向上による低コスト化を両立させるのだ。
DFM は製品の製造容易性を評価する手法である。部品形状を点数化し、その合計により製造容易性を判断するのだ。これはソフトウェアに実装されている場合もあれば、設計者が標準化されたルールに則って適用している場合もある。究極的にはトポロジー最適化とDFMを人工知能により同時進行できるようになるのが望ましい。
3. DFMを実施した場合のリスク
DFMを実施した際にのリスクとして、形状の変更により強度変化が起こることが挙げられる。トポロジー最適化により提示された形状を、DFMにより加工しやすい形状に変更したことにより、応力分布が局所的に変化する可能性がある。この変化が不具合を誘発する可能性があるのだ。そのため、DFM実施後の形状を再び CAEにより評価することと、試作による強度試験で狙い通りに設計ができているかどうかを検証する必要がある。
4. 最後に
コンピュータが自動生成的に設計した形状について、最終的な決断を下すのは人間であることを忘れてはならない。コンピュータを用いて導き出した仮説が、現実世界において正しいのかどうかを検証し、決断する姿勢を常に持つことが、ジェネレーティブデザインの時代における設計者のあるべき姿である。
以上。
今回は書きたいことが満遍なく書けたような気がする。まあ、例によって文字数制限を気にせず書いたので、ブラッシュアップは必要だ。まずは、仕込みを終えたというのが現状だ。これからも精進していこうと思う。