シリコンバレーが世界を変えた
僕たちは、今、大きな変革の時代にいるというのは、相変わらずのことだ。休むことなくめまぐるしく世界は動いている。20世紀の終わりに姿を現したインターネットは、21世紀の初頭に急速な発展を遂げた。そして、シリコンバレーの巨大IT企業とスタートアップ企業たちが、オンラインの世界の覇権を争っている。いつの間にか僕たちのポケットの中には高性能なコンピュータがスタンバイしているような世界になってしまった。かつて、先人が夢見た「ユビキタス社会」は、かくして実現されたのだ。そして、コンピュータは、二次元の画面から抜け出して、僕たちの目の前の世界に染み出してきている。それはデジタルファブリケーションという物理的な世界での出来事であったり、VRやAR(そしてそれらを統合したMR)という精神的な世界での出来事であったりする。ビットの世界が物理世界と精神世界に染み出してくる過程はこれから本格化していくことになるだろう。シリコンバレーを中心として、そんな時代がこれからも少なからず続くのだろう。
もちろん、シリコンバレーだけではない
でも、シリコンバレー至上主義というのもいかがなものか、と僕は思うわけである。というのも、インターネットが繋げたのは世界中のはずで、シリコンバレーしかテクノロジーの中心になれないという道理はないからだ。事実、シリコンバレー以外にも面白い動きは興ってきている。
ハードウェアスタートアップに有利な環境が一番整っている地域はどこかといえば、それはもはやシリコンバレーではなく深圳だろう。深圳のアントレプレナーたちは「山塞」という彼らなりの思想を強力に推し進めている。製品の開発スピードはどこにも負けないだろう。そして、彼らもシリコンバレーのエコシステムと共存することで、さらなる力を発揮しようとしている。
(その辺りのことは、次の書籍に詳しい。)
そして、変革が起こりつつあるのは、もちろん深圳だけではない。WIREDの特集は「Making Things ものづくりの未来」と銘打ったもので、フレンチテックと北欧のリペア・エコノミクスなどを取り上げている。欧州でも新しい時代への動きが加速しつつあるのだ。
シリコンバレーの叡智は地方に分散する
インターネットの本質は、情報を瞬時に世界中のどこにでも届けることができるということだ。僕たちはその恩恵を受ける受審者であると同時に発信者でもある。僕たち一人ひとりが力を与えられたのだ。そして、その力は以前の一般人が手に入れられる類の物ではなかった。人々に力を与える仕組みをうまく作ることができたのが、シリコンバレーだったというわけだ。
彼らの作ってくれた仕組みのおかげで、僕たちは次のフェーズに進むことができるはずだ。膨大な数のプロシューマが活躍する時代がやってくるだろう。もちろん、皆がそうなるというわけではないだろう。だが、与えられた力の使い方を理解した人ならば、そういう選択肢を選ぶことができる。そういう人たちは、世界中で同時進行的に現れるはずだ。もちろん、経済格差が存在するので、均一にものごとが進むわけではないだろう。ムラが出てくるのは当然だ。でも、確実に色々な地域で変革が起こることになるのではないかと思っている。なんと言ったって、マサイ族も携帯電話を使いこなしている時代なのだから。
こうやって、一極集中していた物が再び分散化する。地理的なアドバンテージが、相対化していくだろう。都会から離れた田舎であっても、この流れから無縁ではない。AmazonなどのECによって田舎暮らしが便利になったのはその一例でしかない。やろうと思えば、もっと面白いことができる状態になっているのだ。
というわけで、日本の地方都市に住んでいても、わくわくするような変革を目の前で起こすことも可能なのではないかと思っている。そして、そういう取り組みをしている人たちは、きっとたくさんいるはずだ。なんとも面白い時代に生まれ合わせたものだ。スティーブジョブズが宇宙にへこみをつけたように、いろんな地域に住むいろんな人たちが宇宙を自由に造形していく様を共に見ていきたいものだ。