設計意図はなかなか伝わらない 設計とは奥の深いもので、図面(3次元の場合を含む)に自分の設計意図を詰め込んだつもりでも、加工現場からすると、「こんなもん、出来るかい!」という具合に、なかなか思い通りにならない。それは、加工現場の工程能力であったり、設備の問題が異なるということと、設計側がそれを把握できていないことに起因している。それでも、日本の加工現場というのは、擦り合わせを得意としているため、最終的にはうまく収まることが多い。
海外ではその傾向は顕著に しかし、海外の加工現場となると、話しは変わってくる。設計意図を的確に伝えない限り、思った通りのものが出来てこないことはよくある。箸にも棒にも引っかからない品物が目の前に出現することも残念ながら現実に起こり得る。日本人同士であれば、阿吽の呼吸で伝達できることが、海外では出来なくなってしまうのだ。それでも、海外の設計者たちは日本流の擦り合わせを用いなくても、高品質の製品を作り出すことに成功している。その理由は彼らが、効率的に意図を伝える方法を熟知しているからだ。彼らがどうやっているのかは知らない。幾何公差を最大限活用しているのだろうか。だが、僕たちは僕たちなりの方法で確実な意図の伝達を試みていこうと思う。
設計意図を伝える3つのアプローチ
設計意図を的確に伝える、という行為には3つのアプローチがある。 ①定量的アプローチ その一: 相手を知り尽くせ 思い通りに出来ないのは、図面(3次元の場合を含む)に記載されている公差や面粗さの情報が適切でないからだ。 だから、加工現場の工程能力指数を的確に把握することで、適切な値を設定することができるようになる。工程能力指数を「制御できない因子」と捉えることができれば、ロバストデザインに活かすことができる。 でも、生産をアウトソーシングしている場合、工程能力指数なんて重要情報を開示してくれないんじゃないか、という懸念もあるだろう。確かに、おいそれと開示してくれる情報ではないだろう。 しかし、僕達に独自にできることがないわけではない。それは受け入れ検査で、徹底的にリバースエンジニアリングすることだ。三次元測定機などを活用すれば、部品の加工ばらつきの情報は得られる。納入してもらえばしてもらう程、情報は蓄積されていく。 これらの情報を部品の寸法ごとに分類して、JISの公差等級と比較して見れば、どのような加工が得意で、どのような加工が不得意か分析できるはずだ。このような情報を活用することで、無理のない公差指定が可能になる。三次元測定機を導入できるならば、この方法はおすすめだ。(もちろん、人力でもできるが、手間がかかる。) ②定量的アプローチ その二: 自分の製品をより深く知れ 公差の積み上げに関して、徹底的に検討することが、正しい公差の指定を可能にするもう1つのアプローチだ。これはモンテカルロ法やシステム・モーメント法などの手法を用いて公差解析するのだ。しかし、ある程度力技の側面は否めない。手計算で結果を得るのは難しいかもしれない。コンピュータの活用によりはじめて可能となる手法だ。 ③定性的アプローチ: どこに困っているのかさらけ出してしまえ 図面に、「この穴はには位置決めピンがはまる」みたいなことが書かれていたら、加工する人は感覚的にどのような公差が必要になるか理解できるはずだ。何だか弱みを晒しているようだが、加工現場でこんな指示を見てしまったら、きっと可哀想になって助けてあげたくなるのではないだろうか。分からないことは素直に認めてしまえば良いのだ。 そんな「助けてあげたくなる」図面を基に、加工された現物を確認すれば、図面にそのフィードバックをしていけば良い。 取り組みやすい順番
どの方法も、一定の効果を得られるだろう。でも、取っ掛かりやすいのは最後の定性的アプローチだ。まずは、ここからはじめてみるのが良いのではないだろうか。この方法で感触を掴んだ後に、定量的アプローチに進んでいけば、より強固な設計力を構築でくるだろう。