工程立ち上げの短縮①
新しい製品を開発するのと同時並行的に製造ラインを立ち上げてしまう。そんな夢のようなことができるのだろうか?これが夢のようだと思ってしまうのは、次の理由があるからだ。
新製品を開発して製造ラインを立ち上げるまでには、本当に多くの検討を重ねなければならない。まず、どんな新製品を作ろうか企画しなければならない。そして、実際に設計して試作してそいつが使い物になるのかどうかを検証する。さて、どこから材料や部品を調達してこようか?製造ラインはどれくらいの量を製造できるようにしようか?どんな製造装置を設置しようか?こんな大量の部品をどこから仕入れる?実際に作った製造ラインはうまく生産してくれるだろうか?試しに製造してみよう。そんなことを全部検討していった結果、僕たちは新しい製品を世の中に送り出すことができるようになるのだ。これは、想像を絶する苦難の連続だったりする。
これを、いかに短縮するのかが、今回僕が話したいことだ。立ち上げのリードタイムの短縮を実現するにはどんな重要項目や課題があり、それをどう解決していくのかを語ろうと思う。(解決策には常に問題点がつきものではあるが。)
4つの概念でさっさと旅立とう
では何が肝になるのだろう。それは今から話す4つの道具だ。これさえあれば、最短に道のりで僕たちは目的地にたどり着ける可能性を手に入れることができるのだ。
①フロントローディング
1つ目の道具はフロントローディング型の開発だ。
一般的に、バリューチェーンの下流でトラブルが生じた場合、その対策はより難しくなる。したがってトラブル対応にかけなけれびならない時間も必然的に長くなってしまう。このロスは大きい。そのため、上流の工程にリソースを集中させて、一気に不具合を叩いてしまうのだ。この考え方をフロントローディングという。
②コンカレントエンジニアリング
2つ目の道具はコンカレントエンジニアリングだ。これは新製品の開発を進めると同時に、製造工程の立ち上げに取り掛かってしまおうというものだ。これは部門間の情報共有を密にしたり、一緒に課題に取り組むなどの協力体制を整えることで実現する。
③試作の仮想化
ここからは先ほどの項目に比べると少し具体的な話になるが、仮想空間での試作や試験も効果的だろう。コンピュータ上に製品のモデルや工程のモデルを構築し、試験を実施することで問題点を洗い出すのだ。また、ここ数年でVR(仮想現実)の技術が飛躍的に進化してきており、この技術を利用することにより、より細部にわたって検討を実施できるようになるかもしれない。これが3つ目の道具、3DCADとCAEだ。3DCADでモデル化した仮想空間上の製品を、CAEを使って実際に使ったり、作ったりするのだ。
④ラピッドプロトタイピング
最後の道具はラピッドプロトタイピングだ。ラピッドプロトタイピングという概念はクリス・アンダーソンの『MAKERSー21世紀の産業革命がはじまる』という本によって広く知られるようになった。3DプリンタやCNCなど、デジタルデータから実物を作り出す技術により、新しいものづくりがはじまるというのが、この本の主旨だ。(*1)アトムからビットへ。
これは本当に強力な道具だ。なぜなら仮想空間で検討したモデルは、3Dプリンタなどを活用することで、物体としてすぐに手に入れることができるからだ。仮想空間ではいまいち実感の持てない、持ちやすさや、使いやすさといった感覚は実際に手にとって見ないと分からない。だから、実体を短期間で手に入れられることのメリットは大きい。
…とは問屋が卸さない
さて、これで道具は出揃った。これで僕たちは最短経路で旅に出かけることができるようになった!と、言いたいところだがそんなに話は単純ではない。この道具たちは使いこなすのが簡単では決してないのだ。というわけで、次回は道具の使い方について話そうと思う。
(*1)クリス・アンダーソンの本では、単にラピッドプロトタイピングについて述べてられているのではなく、デジタルファブリケーションにより、ものづくりの仕組みまで大きく変わるだろうということが書かれている。