CADと設計思想
SketchPadのような初期のCADにもオブジェクトやインスタンスという概念が導入されていることは、前回触れられていた。しかし、このタイプのCADに足りていなかったものは、設計思想を反映するための機能だ。つまり、ジオメトリは単なる図形としてしか扱うことができず、物理的な挙動を記述することはできなかったのだ。 それに対して、現代のCADは物理的な挙動を記述するための道具を備えている。それは、シミュレーション機能だ。シミュレーション結果をCAD上の設計値に反映させたパラメトリック設計を行うことで、CAD上のオブジェクトは単なる形状から、設計者の意図を反映した形状に昇華する。それは、プログラム化されたデザインなのだ。 ただし、ここで水を差すようだけれども、FEAの結果というものは、あくまで理想的な挙動であることは忘れてはならない。メッシュの切り方によって、シミュレーション結果は変わってくるし、コンピュータの計算負荷を軽減するために形状を単純化して計算を行うということも頻繁に行われている方法だ。だから、現実世界と解析結果を照らし合わせて補正するという作業を飛ばすことは現段階では出来ないと思う。 とは言え、それは現在では時点の技術を用いるのであればという限定付きの話だ。将来的には解析結果と現実世界の挙動のズレを補正することは不可能ではないだろう。それが可能となったとき、僕たちは真に現実世界をプログラミングするということが可能になるのだと。 FEAがCADを高度化する (以下引用) 物理的なオブジェクトをプログラムするための真の高級言語をコンピュータに提供するためには、材料の挙動を予測する方法が必要となる。これを実現する1つの方法は、解析式を使用する方法だ。例えば、設計者は、そのサイズ、材料特性、および所望の剛性と共に、ばねを記述する式を入力することができる。この式に基づいて、適切なワイヤ直径が自動的に決定され、仮想バネが生成される。このアプローチは、解析式があるジオメトリと関数の小さなサブセットに対してのみ機能する。任意形状の実際の挙動を予測するために、有限要素解析(FEA)法が使用される。 FEAは、オブジェクトを点のメッシュに変換し、各点で構成方程式を評価することによって、オブジェクトの全体的な動作をシミュレートする。たとえば、荷重を受けているばねの全体的なたわみは、そのらせんに沿った各点での微小なたわみを求めてからそれらを合計することによって計算できる(この説明は多少単純化されているけれども)。このテクニックは普遍的なのものであり、あらゆる形状やサイズのスプリングに適用される。 FEAによって生成された結果は、ソリッドモデルに影響を与えるために使用することができ、設計者は望ましい振る舞いを達成するための理想的な形状と材料を見つけることができる。 単なるジオメトリとしてではなく設計思想を捉えることにより生じる利点の1つは、仮想オブジェクトが他のユーザーと簡単に共有され変更可能になるということだ。たとえば、ティーカップのソリッドモデルに、黄金比に対する比率を制限するロジックを埋め込むことができる。その壁厚は、壁がその内容物の静水圧およびその使用者の握り力に耐えることができることを保証するFEA計算から導き出されるのかもしれない。デザイナー以外の誰かが2倍の量の液体を保持するようにカップを変更したい場合であっても、彼らはパラメータをひとつ変更し、一方でカップが意図したように機能することを保証するデザイナーの「プログラミング」は保存されたままにすることができる。このタイプのカプセル化は「パラメータ化」と呼ばれ、コンピュータプログラマがコード関数のライブラリを作成して再利用する方法と同様に、オブジェクトのライブラリを有効にする。 これは、この論文の例が焦点を当てている機械技術だけでなく、シミュレーション機能を備えた類似のCADツールが多くの設計分野に存在することに注意すべきだ。電気工学、建築、化学、生物学はすべて、素材に形を与えたり、さまざまな形や素材が設計中のものの動作に及ぼす影響をシミュレートするためのコンピュータベースのツールを持っている。 訳註)有限要素法(FEM)を用いた解析が、有限要素解析(FEA)
(つづく) 引用:自動化ツールの仮装装置制御のためのゲジュタルトフレームワーク(Ilan Moyer)
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