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平行四辺形と螺子

ahedgehogchase

◉ベクトル積の物理的意味

ベクトル積は罪なやつだ、と僕は思う。まあ、物理や数学の用語なんてものは基本的に性格がきつめだ。いったい何人の学生が泣かされてきたのか、と思う。

 でも、こいつのことを知ると、何だか微笑ましいような気にもなる。なんだ。要はモーメントのことなんじゃないかって。付き合い方を知れば案外良い奴だったりするのだ。

a×bというベクトル積の計算を考えてみよう。ベクトル積はベクトル同士の掛け算だが、ひとつ目のベクトルaと、ふたつ目のベクトルbの役目は少し違う。

 何が違うだろう?僕はもう答えを言ってしまってるから、きっとわかるはずだ。では、僕はなんて言っただろうか。思い出してほしい。

「要はモーメントのことなんじゃないか」

 では、モーメントとは何だっただろうか?もう少し日常的な表現をすれば、これはてこの原理だ。つまり、長さ×力だ。

 これをベクトル積に適用してみるとどうなるだろうか?ベクトル積はふたつのベクトル同士の掛け算だ。モーメントも掛け算だから、このふたつの概念が似たような形をしていることがわかる。それぞれの要素を対応させてみると、ベクトルのひとつは長さの役割を担い、もう一方は力の役割を担うのではないかということが予想される。そして、それはだいたい合っている。

 答えを言ってしまうと、ベクトルaは位置ベクトルだ。残念ながら長さそのものではない。一方、ベクトルbは力ベクトルだ。こちらは正解。ちなみにひとつ目のベクトルが位置ベクトル同士で、ふたつ目のベクトルが力ベクトルという順番は変えてはいけない。(というわけではないのかも知れないが理解しにくくなる)なぜかは、これから説明しよう。

 ひとつ目のベクトルaは位置ベクトルだと書いた。これは長さそのものではないが、位置が分かるということは基準からの長さが分かるはずだ。でも、僕たちが求めたいのは位置ベクトルの長さではない。モーメントを考えるときに大切な「長さ」は力ベクトルに垂直な方向の長さだ。これは、腕の長さと表現される。では、ベクトル積でいうところの腕の長さは何だろうか?位置ベクトルと力ベクトルのなす角をθとしよう。そうすると腕の長さは位置ベクトルの長さaに、sinθをかけたもので表せるのだ。これは、位置ベクトルの先端に力ベクトルを描いたときに、位置ベクトルの始点(原点Oと呼ぶことにしよう)から力ベクトルの作用線に向かって垂直に線を描いたとき、その交点と原点の距離に等しくなる。これはまさしく腕の長さに相当しているのが分かるだろう。

 これで、ベクトル積の大きさが計算できる。ベクトルa,bの大きさをそれぞれa,bとすれば、ベクトル積の大きさはabsinθだ。お気づきかも知れないが、この大きさはベクトルa,bがつくる平行四辺形の面積に等しい。

 ところで、ベクトル積はベクトル積という名前なのだから当然ベクトルだ。ベクトルである以上、こいつは方向を持つ。どっちに行くんだろう?

 ベクトル積はモーメントなので、力ベクトルの方向が分かれば、位置ベクトルがどのような回転運動をするか想像することは難しくないはずだ。位置ベクトルaは力ベクトルbの方向に回転するだろう。

 でも、ちょっと待ってほしい。ベクトルの方向って直線上になかったっけ?そうなのだ。回転方向が分かっても、それはベクトルの方向ではないのだ。じゃあ、モーメントなんかベクトルで表現するのはそもそも無理なんじゃないだろうか?

 ところが心配には及ばない。軸性ベクトルという概念を使えばこの問題は解決できる。「また、変な用語を投入されて頭がこんがりそうだよ」、と君はいうかも知れない。そう言わずに、もうちょっと続きを読んでほしい。

 ここで、ねじを想像してほしい。ドライバーでねじを締めたことはあると思うが、ねじ穴にねじを突っ込んでドライバーを時計回りに回したらねじはどうなるだろうか?締め付ける方向にねじは進んで行くだろう。逆に反時計回りに回したら、緩む方向にねじは戻ってくる。ほら、これで回転方向が直線的な運動と関連づけられたことになる。ねじが進む方向が軸性ベクトルの方向なのだ。そして軸性ベクトルの方向というのは、このベクトル積の方向だ。軸性ベクトルの単位ベクトル(長さに1のベクトル)をiとすると、ベクトル積は

a×b=absinθi

と表せる。

 なんか、上手く出来すぎてはいやしないだろうか?ねじという人間が作り出したに過ぎない道具を、自然の法則を表す数学とか物理学を説明するのに使って良いのだろうか?神様はねじを締めるのか?

 もしかしたら、こんな違和感を感じることもあるかも知れない。でも、これはあくまで「こういう方向で考えてね」というルールを決めただけの話だ。方向の基準が人によってバラバラだと意思疎通が困難になる。だから、そう定義しただけなのだ。だから、軸性ベクトルの方向については、「そういう風に決めたんだな」くらいに思っていたらいいと思う。

 ちなみに、軸性ベクトルを表記する場合は、その回転方向を併せて描くことも多いので覚えておいてほしい。

 さあ、これでベクトル積のことが分かったと思う。意外と取っ付きやすい奴だったんじゃないだろうか?軸性ベクトル共々仲良くしてやってほしい。

*参考文献:メカトロニクス時代の機械力学 小野右京著

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◉ベクトル積にまつわる補足 この話は、補足的な説明なので、さっと読み流してもらえれば良いと思う。 ベクトル積の大きさを考えた時、腕の長さをasinθとして、そこに力ベクトルの長さを加えた。でも、腕の長さをaとして、そこにbsinθの大きさの力が加わっていると見なしても良いの...

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