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  • ahedgehogchase

質点のランニングを観察してみる①

◉質点の運動

 ある朝、質点は違和感を感じた。

「あれ、俺ってこんなに重かったっけ」

 質点にはもともと体積はない。だからまるで幽霊みたいだと周りの人は言う。でも質量があるから、体重計に乗れば自分の体重はわかるのだ。

「やばい、ダイエットしなきゃ」

 今日は休日だ。特に予定もない。質点はさっさと着替えてランニングに出て行った。「ランニング日和だなあ」と彼は呟いた。

 今日は、そんな彼にまつわるお話だ。

 質点の運動について調べるためには僕たちには何ができるだろうか。まず思いつくのは、質点は今どこにあるのかがわからないと何も議論できないということだ。質点の位置を紙に書き出してみよう。そしてその位置を点Aとしよう。

 でも、その点Aっていったいどこなの?と訊かれるとあやふやな言葉しか出てこないかもしれない。「点Aは点Aだ!」とか言ってもよく分からない。だから、基準Oを決めよう。そうすれば、この基準の位置からの距離などで、質点の位置を把握することができる。しかも今、質点は運動している。さっき紙に書き出した位置にいるのは一瞬のことだ。だから、今後のことも考えると基準を決めるというのは大事なことだ。基準を点Oとでもしてみようか。

 これで、質点の運動経路上の位置を表すことができるようになった。点Aの位置ベクトルをp(t)=OAまたはpと呼ぶことにすれば、質点の位置を定義することができた。ベクトルpに具体的な位置情報を与えてやればイメージが湧きやすいかもしれない。

 さて質点の位置は分かったが、質点はランニング中なので、当然ずっと点Aにいるわけではない。点Aにいた時間よりほんの少し時間が進んだΔt経過後には点Bまで移動している。その時の移動距離がΔsだ。点Oから点Bを結ぶベクトルをp(t+Δt)とすると点Aからみて点Bは

Δp=p(t+Δt)-p(t) 

で表せる。

 Δtは短い時間なので、点Oと点Aの距離と、点Oと点Bの距離はほとんど同じだ。だから、同じ円弧上を運動していると考えても差し支えないはずだ。そうすると、質点は円弧上を運動しているのだから、点Aでは質点はその円弧の接線方向に移動していることがわかる。

 運動の方向が分かったので、どれくらいの速度で移動しているかがわかれば、それが点Aにおける速度ベクトルがわかる。では、どれくらいの大きさの速度で運動しているのだろう?

 それはΔtが限りなく0に近づけた時を考えればわかる。

Δt→0のとき、

v(t)=dp/dt=dp/dsds/dt

 接線方向の単位接線ベクトルをetとしよう。etはdp/dsのことだ。単位ベクトルなので長さは1だ。また、接線方向の速度の大きさをvとすると、v=ds/dtというスカラ量で表すことができる。ちなみにvの大きさは時間によって変化するかもしれないので、v(t)という書き方でもOKにしよう。質点もランニングしていたらバテることがあるかもしれない。逆に、調子が出てきて加速することだってあるだろう。これで速度ベクトルを方向と大きさに分解して考えることができるようになった。

 速度ベクトルは

v(t)=v(t)et

と表現することができる。

 ここまでくると、この速度はどのように変化していくだろう、ということに興味が出てくるだろう。「いや、あんまり興味ない」と言われると苦しいが、興味を持ったとしよう。

 なんで興味を持って欲しいかというと、速度の変化すなわち加速度がわかれば質点がこの先どんな運動をするかを予測することができるからだ。本当に円運動をするのか、はたまた実は直線運動なのか。いやいや、実は両方の組み合わせということもあり得るだろう。

 というわけで次は加速度についてお話ししようと思う

*参考文献:メカトロニクス時代の機械力学 小野右京著

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◉ベクトル積にまつわる補足 この話は、補足的な説明なので、さっと読み流してもらえれば良いと思う。 ベクトル積の大きさを考えた時、腕の長さをasinθとして、そこに力ベクトルの長さを加えた。でも、腕の長さをaとして、そこにbsinθの大きさの力が加わっていると見なしても良いのではないか、という考え方もできる。この場合も求めたいベクトル積の値は同じになるはずだ。結果的には同じなのだ。 でも、起きる現象

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