高い床を引き下げよ ジャカード職機を始祖とする自動機がもたらした効率化により、その装置を導入した組織には大きな利益がもたらされた。その装置によって製造された製品を購入した消費者は高品質の製品を安く手に入れることができるようになっただろうし、工場で従事していた従業員も給料をもらって生活することができただろうから、彼らにもメリットがあったことは疑いはない。けれども、一番その恩恵に預かったのは、言うまでもなく資本家であり、経営陣だった。けれども、それは理にかなった事でもあった。それらの装置は一般庶民に手が届くものではなく、大規模な資本を投資する必要があるものだったからだ。 でも、今は違う。コンピュータは僕たちのポケットの中に入っている。極端なことを言えば、スマートフォンで3次元CADを操ることは不可能ではない。それほどまでに、設計ツールへのアクセスは容易になった。 でも、まだ問題はある。それは、「ダウンロードしたものの使い方が分からん」という状況が多々あるということだ。確かにCADツールを使って、モノをデザインできるようになるには、ツールの使い方を学習して、使い込まなければならない。そして、それは決してたやすい事ではない。 はじめてこのようなツールを扱う人たちにも楽しんで使ってもらうにはどうしたら良いのだろうか。そのひとつの回答が、「カスタマイズして楽しもう」というものだった。ちょっと寸法をいじって自分好みに仕上げる。そういう使い方に慣れ親しむことができれば、もっと高度なCADツールへの敷居が少し低くなる(かもしれない)。 これが分かりやすい例なのかとうかは分からないけれども、ミスミの機械部品のラインナップから欲しい寸法をして部品を選定するようなやり方も、これに近いだろう。Webページ上で欲しい品物のパラメータを設定すれば、選択した部品の3Dデータが表示される。入り口としては、気楽な方法であることには違いない。 (以下引用) パーソナルファブリケーション 「資本主義的生産とは、相反する2つの階級による活動であり、そこでは人間性は分裂する」と彼の論文「機械設計における社会的選択:自動制御工作機械の事例と労働への挑戦」で技術史家David Nobleは書いた。Noble、1978年)。彼のエッセイは、工作機械、具体的にはNCは、労働者階級からの生産現場の支配権を奪うために企業経営陣の選択的な圧力の下で発展したと主張した。重要なことに、Nobleはこのような問いを投げかけている。 「…プログラミング機能と機械操作機能を組織内で分ける必要があるのだろうか?他の装置と同じ場所で、プログラミングを行うことはできないのだろうか?もしくは装置を扱う人々が行うことができないのだろうか?」(Noble、1978年、P.323)。 最初に数値制御が恩恵をもたらした製造業の分野では、オブジェクトの設計者と現代の自動化された生産ツールを操作する機械工との間には、まだ大きな隔たりがある。Nobleは、工業用NCツールは、そのツールのオペレータが、そのツールが従うべき指示を出した人物とは異なる部屋に、あるいは別の大陸に座っているシステム用に設計されているという事実についてコメントしたのだ。それでもコンピュータが普及し、電子機器の低価格化したことにより、設計および製造のためのツールは、全く異なるニーズを有する全く異なるターゲット層でも利用することが可能になった。 現在、ほとんどの先進国で非常に容易にコンピュータにアクセスすることができるようになった。最近では、CADソフトウェアが入手可能になったことで、仮想オブジェクトを作成するためのツールが大衆の手の届くものになった。これらの無料CADツールにはさまざまな形態がある。 SketchUp(Sketchup、2013)と呼ばれるプログラムは、基本的な3D描画プログラムだ。材料を追加および削除するための仮想ツールが用意されているけれども、プロのCADパッケージで利用できるような制約を課したり分析を実行する方法はない。 SketchUpと対極になるのは、OpenSCADと呼ばれるPythonライブラリだ(OpenSCAD、2013)。オブジェクトは文字通り形状をアルゴリズム的に指定することによってプログラムされる。 Pythonでのプログラミングに慣れているユーザーであれば、これは非常に面倒で手で描くのが難しいジオメトリを作成することができる。コードを使用してオブジェクトを設計すると、前述のティーカップのように、パラメータ化とオブジェクトの再利用も促進される。 SketchUpやOpenSCADのような無料のCADプログラムが利用可能であるにもかかわらず、習熟するのが容易ではない。このことは、依然としてそれらのツールにアクセスすることは容易ではないことを意味する。この問題に関して、「カスタマイザ」という概念に基づいた取り組みが行われている。MakerBotのCustomizer(2013)やShapewaysのCreator(Shapeways、2013)などのサービスによって実装されたこのアプローチは、ユーザーが独自のカスタムメイドのオブジェクトをデザインするために微調整できるパラメータ化されたモデルを提供している。たとえば、指輪の基本的なデザインは、個人の指や幅の好みに合わせてデジタル的に調整することができるのだ。
( つづく ) 引用: 自動化ツールの仮装装置制御のためのゲジュタルトフレームワーク (Ilan Moyer)
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