◉タグチメソッド④〜敵の逆手を取れ〜
不確定要素は品質の敵だ。では、どうやって不確定要素と戦えば良いだろうか。敵に打ち勝つには敵の逆手を取るのが良い。不確定要素を味方につけるのだ。というより、不確定要素を深く知り、使いこなすのだ。不確定要素は、データのばらつきという形で姿を現わす。その尻尾を掴んでやれば良い。ばらつきの大きさを知ることができれば、僕たちはばらつきについて何らかの理解ができるようになる。ばらつきに影響を与えているのは何か。それを突き止めることも可能になるのだ。ばらつきに寄与するものを理解できれば、それはもはや不確定要素ではなくなる。確定要素だ。これで、どのように戦えばよいかという戦術が見えてくるはずだ。
さて、ばらつきの大きさは、標準偏差で表現することができる。標準偏差はエクセルを使えば簡単に求めることができる。(詳しく知りたい人は統計の教科書を読んでみることを勧める)通常、標準偏差はσ(シグマ)という記号で表される。タグチメソッドでは1/σという量が大きな意味を持つ。この値を使いこなせれば、敵は完全に僕たちの手中に落ちる。そういうものだ。
これが、3つ目の視点だ。
君は何を望み、何を望まないか
それを知っているなら割り算すればおのずと答えは見える
ものづくりに関わる誰しもが、最高にクールなものを世の中に出したいと望んでいるだろう。そのクールさにつながる性能について、君は熟知しているはずだ。そのことについて何時間でも話せる情熱がきっと君にはある。そして、そのクールさを台無しにしてしまうイケてない要素についても考えを巡らせたことがあるだろう。「最高にカッコいい場面で、動作ミスしてしまったらどうしよう。そんなのまっぴらだ!」と。
でも大丈夫。君がその2つについて知っているなら、あとは割り算をすれば良いだけだ。この割り算のことをS/N比という。ここで言うSとは、シグナルのことだ。つまり君の製品が発揮しなければならないクールな性能の値のことを指す。それは何らかの形で計測できなければならない。そして、Nはノイズ因子のことだ。このノイズ因子が君の製品をイケてないものに貶めてしまうかもしれない原因となる。シグナルをノイズ因子で割れば良いのだ。ものすごく簡単だ。
このS/N比こそがロバスト性の指標となる。これもロバストデザインと並ぶタグチメソッドの最重要キーワードだ。この言葉を知らなければタグチメソッドについて語れない。それくらい大事なものだ。
S/N比という道具を手に入れたことで、僕たちはロバスト性を定量化することができるようになった。これはつまり、ノイズが僕たちの製品の品質を低下させない条件を探し当てる術を手に入れたということだ。もう何も怖いものなどない、とまでは言わないが、なんと心強い味方ができたのだろう。S/N比に慣れ親しむことがタグチメソッドの根幹となる「トラブルを未然に防ぐ」ための最後の視点となる。これで、4つの視点を網羅することができた。
新しいことを憶えることは、それほどたやすいことではないかもしれない。でも、繰り返し使うことで僕たちは少しずつ慣れることができる。早いに越したことはないが急ぐ必要はない。確実にこの道具を使いこなせるようにしたいものだ。