背景
インターネットの普及、そしてデジタルファブリケーション技術の発展とともに、ものづくりをコミュニティベースで進める運動「MAKERS MOVEMENT」が盛り上がりを見せている。これは今世紀の製造業のあり方を根底から覆す動きになるだろうと予測されている。コミュニティベースの技術開発の利点は世界中の智慧を集めるポテンシャルを秘めていることだ。あるプロジェクトが魅力的であれば、世界中からそのプロジェクトに参加しようとする人たちが集まる。コミュニティベースの開発で有名なのは「ローカルモーターズ」だ。彼らはコミュニティーの力を借りて自動車を開発し、3Dプリンタなどのデジタルファブリケーション技術を活用して自動車の製造を行っている。グローバルに開発してローカルに製造しているのだ。
一方で、旧来のものづくりにおいては「現物、現場、現場」の三原主義の重要性は高い。なぜなら、これらを確認することで、情報劣化のない一次情報を得ることができるからだ。いくら3D CADの性能が発達しても、実物の情報量にはかなわない。3D CADのデータは情報はすべての物理情報を持っているわけではないのだ。現実世界の情報をそのままデジタルに映し出すことは現時点ではまだ困難だ。
このように、世界中に分散する智恵を集結させるクラウド型のエンジニアリングの手法と旧来のものづくりとの考え方の乖離は大きい。ひとつの考え方としては、生産拠点を世界中に無数につくるということだ。たとえばFABLABという施設は、世界中に拠点を持ち、ネットワークで繋がっている。こういう組織であれば、デジタルに共有されたデータをローカルな設備で生産することができる。こうすることで、自分のいるところが「現場」になり、そこで作られた「現物」を確認し、「現場」を知ることができる。そういう意味で、たくさんの小さな生産施設を束ねるという方法は「クラウド型三現主義」にとって有効な方法だ。
しかし、その現場特有の問題というものもある。ある拠点でしか起きない問題に関して、生の情報を他のメンバーに共有するのは困難だ。もし、情報量の多いまま問題を共有することができたなら、各拠点間のコミュニケーションはもっと密になるだろう。それはクラウド型エンジニアリングの効率をさらに高いものにすることができるはずだ。